割れガラスの向こうに…

ware_garasu3年前にうちの家族の一員になったシェットランドシープドックの散歩は、なぜかそのとき買ってくれとせがんだ娘ではなく、わたしの役目となっていた。
その日も早朝、いつものコースで散歩していたわたしの前を愛犬が歩いていた。しかしせっかく散歩に連れ出してみても、うちの愛犬はあまり散歩自体が好きではないらしく、ある程度の距離を歩くとそこで電池が切れてしまったように動かなくなる。それじゃあ帰ろうかと道を引き返し始めると、途端に元気になって歩き出すのだから、歩き疲れたというよりも、あまり遠くへ行きたくないというのが本音なのであろう。

さて、その日もいつもどおり帰り道を元気に歩いていた愛犬は、なぜかいつもなら立ち止まらないご近所の家の前で立ち止まってしまった。その住居はおばあさんのひとり暮らしで、野良猫が出入りする程度で犬も飼っていなかったのだが、なぜかその日はうちの犬が家の様子を気にしている感じだった。
妙だなと思ったわたしも何気なく庭を覗き込んだのだが、特段変な様子はないように思えた。しかしそのとき、庭に面したベランダの窓ガラスが割れているのが目に入った。瞬間的に空き巣が入ったのだろうかと思い、いつでも110番できる状態で庭の中に入っていったわたしが見たものは、庭に転がる置時計と、割れガラスの向こうで畳の部屋に横たわるおばあさんだった。
その後はすぐに110番通報をして警察が到着するのを待つ間、おばあさんを助けようと室内に入ったが、そのときガス臭いことに気が付いた。

あとでわかったことだが、お湯を沸かし、料理をしている途中で具合が悪くなったおばあさんは、吹きこぼれてガス漏れになってしまった状態に気が付いたが上手く身体が動かず、なんとか誰かに気が付いてもらおうとして、手元にあった置時計を窓ガラスに向かって投げつけたのだそうだ。異変に気が付いた愛犬は、ご褒美に犬用のジャーキーを一箱進呈されたのだった。